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大阪地方裁判所 平成元年(行ウ)36号 判決

原告 五味多正雄

被告 河内長野市長東武

右訴訟代理人弁護士 俵正市

同 重宗次郎

同 苅野年彦

同 草野功一

同 坂口行洋

同 寺内則雄

同 小川洋一

被告指定代理人 壺井仁孝

〈ほか一名〉

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が別紙物件目録記載の各土地について、これを真の所有者に返還しないことが違法であることを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の答弁

主文と同旨。

2  本案に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は河内長野市の住民であり、被告は河内長野市の長である。

2  河内長野市は、昭和五一年八月二四日に大登興産株式会社から別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)の寄付を受けた。

3(一)  大登興産株式会社は、本体各土地を所有しておらず、特に別紙物件目録一記載の土地の真の所有者が五葉谷薫(以下「五葉谷」という。)であることを知りながら、これを河内長野市南青葉台三九六九番一の土地から分筆したうえ河内長野市に寄付し、その旨の所有権移転登記が経由されたものである。

(二) 右に照らせば、本件各土地の右所有権移転登記は、民法九〇条、九五条に反し無効であり、河内長野市は本件各土地を取得できないから、被告及びその指揮下にある河内長野市の職員は、地方公務員法三二条、三三条やその他の法令により義務付けられた善管注意義務に従い、河内長野市がこうして不正に取得した本件各土地を五葉谷ら真の所有者に返還すべき義務がある。

(三) ところが、被告は、本件各土地を五葉谷らに返還しない。

4  よって、原告は、被告の右怠る事実が違法であることの確認を求める。

二  被告の本案前の主張

仮に、原告の主張する事実が存在するとしても、これによって河内長野市は何ら財産上の損害を受けるものではないから、被告は、本件について地方自治法二四二条一項所定の財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」ともいう。)があるとはいえない。したがって、原告の本件訴えは、不適法である。

三  本案前の主張に対する原告の認否及び反論

1  本案前の主張は争う。

2  地方自治法二四二条の二第一項三号所定の怠る事実の違法確認の請求は、職員の不作為をも住民訴訟の対象としたものであるところ、当該職員が法令により定められた義務を怠り、右懈怠が客観的にみて正当性を欠いておれば、右義務違反は違法と解されるものである。本件では、被告に請求原因3(二)のとおり法令所定の義務違反が存することは明白であるから、被告の本案前の主張は採用できない。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  請求原因3について

(一) 同(一)のうち、本件各土地につき河内長野市に対する所有権移転登記が経由されたことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 同(二)は争う。

(三) 同(三)の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  本件訴えの適否について

1  地方自治法二四二条の二第一項三号所定の怠る事実の違法確認の請求は、公金の賦課、徴収又は財産の管理を違法に怠るという執行機関の財務会計上の行為を対象とし、この是正を目的とするものであって、一般的な行政監督上ないし地方自治体の違法行為の是正を目的とするものではない。そして、執行機関につき地方自治法二四二条一項所定の財産の管理を怠る事実が認められるためには、当該執行機関が当該財産の管理、すなわち、財産的価値そのものの維持保全又は実現のためにそれを直接の目的としてされる財務会計上の行為をすべきにもかかわらずこれを怠っていることが必要である。

2  そこで、これを本件についてみるに、原告は、河内長野市が違法に取得した本件各土地を被告において五葉谷ら真の所有者に返還しないことが怠る事実に該当する旨主張するが、右返還をなすことが本件各土地についての右財務会計上の行為にあたらないことは明らかであるから右返還しない事実は怠る事実に該当せず、また河内長野市は、右返還がなされないことによって何らの損害も受けないから、本件訴えは、怠る事実に該当しない事項について、それが違法であることの確認を求めるものであるから、不適法である。また、仮に原告の本件訴えが河内長野市が本件各土地を取得していないことを前提とするものであるとすれば、本件各土地は地方自治法二四二条一項所定の財産に該当しないから、本件訴えは、この点においても不適法である。

なお、原告は、怠る事実とは、当該職員が法令により定められた義務を怠り、右懈怠が客観的にみて正当性を欠く場合をいうところ、本件では被告の義務違反は明らかである旨主張する。しかしながら、原告の前記主張事実が怠る事実に該当しないことは前判示のとおりであるから、原告の右主張は、その前提を欠くものとして採用できない。

3  したがって、原告の本件訴えは、地方自治法二四二条一項所定の怠る事実に該当しない行為を違法として、その是正を求めるものであるから、その余の点について判断するまでもなく、不適法である。

二  結論

よって、原告の本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 田中敦 黒野功久)

〈以下省略〉

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